【保険に関する記事】医療保険は必要か


医療保険は必要か否か

 一般家庭のおよそ9割が加入している生命保険に並び、多くの人が加入している医療保険。 生命保険文化センターが行った平成24年度の全国実態調査によると、民間の生命保険に加入している世帯の92.4%が医療保険に加入、もしくは生命保険に医療特約を付加しています。 


しかしながら加入のきっかけは、「会社に出入りしているセールスレディに勧められて」「就職や結婚をきっかけに」「何となく将来の健康やお金に対する不安があって」などが多く、「病気をするとどのような経済不安が起こり、それに対していくら必要だからこの保険に入った」、という具体的なリスク管理に基づいて加入している人は少ないようです。

 医療保険は、私たちにとって本当に必要なのでしょうか。 

近年では医療保険の内容やしくみに疑問を投げかける専門家もいます。

 今回は、私たちにとって医療保険とはどのようなものなのか、その必要性も含めて検討してみます。

 

医療保険の必要性の有無は人それぞれ

 医療保険は必要か。 

その答えは、問いかけをした人それぞれによって違う、というのが本当のところです。 

医療保険のもつ役割や特徴をひとまず脇において考えてみると、まず、医療保険に加入しなくても十分な貯蓄でリスクに対応できる人にとっては保険という存在そのものが必要ないといえますし、多くない貯蓄を突然の出費で失いたくない人は、月々の保険料の支払いで保障を得たいと思うでしょう。 こうした個人個人の財政状況によっても必要か必要でないか、という答えがある程度出てきます。

では、「保障が必要と感じる人」にとって、医療保険はどの程度その役割を果たしてくれるのでしょうか。 

ここで思い出してほしいのが、 

「保険とは、将来起こりうるリスクに備えるための制度である」

ということです。 保険に加入しようとしている人それぞれが自分自身に起こりうるリスクを洗いだし、そのリスクに対応した保障を備える、という保険の使い方をまず念頭において検討していきたいものです。 


公的な保障もある。医療保険を検討する前に知っておくべきこと 

そこでまず知っておかなければならないのが、公的な保障の存在です。 国は、私たちが病気やけがをしたときにどのような保障をしてくれるのでしょうか。 民間の医療保険を検討するのは、この公的な保障を把握してからとなります。 

ここでは2つの代表的な保障についてお伝えします


・高額医療医制度

  この制度は1か月を単位とし、その間にいくら医療費がかかっても本人の所得に応じて一定額以上の医療費がかからないようにしてくれる制度です。 

たとえば一般的な所得を得ている会社員の人は、1か月の医療費が100万円にのぼっても支払いは9万円を超えません。 したがってこの制度を適用すれば「医療費が100万円もかかってしまった、もうおしまいだ!」というようなことは起こりえません。 また、この制度は事前に「高額療養費限度額適用認定証」の申請をし、認定証を受け取っておけば会計の窓口で適用されますので、ひとまず実費で多額の費用を支払う、という必要もありません。 


・傷病手当金

 これは簡単に言うと、「働けなくなった場合の収入を保障します」という制度です。入院に限らず自宅療養となった場合でも、その働けない期間の収入を保障してくれます。 この制度では、病気やけがで仕事を3日間休むと(これが条件)、4日目から1年6か月を限度に、標準報酬日額の3分の2の手当金を受け取ることができます。 この二つの制度のことを知っていれば、ひとまずは医療保険に必要以上に高額な保障を求める必要がないことがわかるでしょう。 


公的保障の盲点。そこに医療保険の必要性が見えてくる

 ただし、この2つの制度にも注意点があります。 

まず、「高額療養費制度」については対象外の項目があり、先進医療費、食費、差額ベッド代は保障されません。たとえば入院の際に大部屋が空いていなかった場合、個室や2~4人部屋に入ることになりますが、1日およそ6000円前後を平均とする差額ベッド代を支払って入院すると、その金額は1か月で約18万円になります。 病院側の都合で大部屋に入れないのであれば、本来その差額ベッド代を支払う義務はないのですが、果たしてすべての病院でそのルールが通っているのかは大いに疑問です。 

ここで、医療保険の必要性、いわゆるリスク回避の必要性が見えてきます。このリスクをカバーできる貯蓄がない人は、医療保険で備えておくのが安心です。

 一方、「傷病手当金」についても、対象外があります。この制度は会社員にしか適用がないのです。国民健康保険加入者である自営業の人や個人事業主の人は、入院とともに収入がゼロ、という事態が起こりえます。こういった場合に備えて、医療保険に収入保障の役割をもたせることも視野に入ってきます。 


医療保険は「万能」ではない。 医療保険はその内容を把握したうえで加入する 

では、こうしたリスクに、医療保険がすべてこたえてくれるのか、ということが、次の問題です。

入院した、手術した、通院が続いてお金がかかった。では、そのすべて、もしくは満足できる程度の保障を、その医療保険がしてくれるのでしょうか。

 ここでまず1つ確認しておきたいのが、医療保険の基本は入院保障である、ということです。入院に対する保障がベースにあり、そこに必要に応じて通院や先進医療、がんや女性特有の病気を厚くするなどの特約を付ける、もしくは付いている、という構造がほとんどです。 病気やけがをしたときに大きな出費となる可能性が高い手術の保障額も、この入院の日額を基準に決まってきます。


 医療保険の主な保障内容 

・入院保障 

まずは、医療保険のベースともいえる入院に関して見ていきます。 

入院の保障内容を見てみると、たいてい1入院あたり60日、90日、120日、などの上限が決められています。 もっとも、厚生労働省の「患者調査」による病気やケガでの平均入院日数は32.8日ですので、おおむねこの保障日数でカバーできます。 しかし、精神疾患や認知症、アルツハイマー病などの入院は200日~500日超と長くなっており、1入院あたりの日数限度を軽く超えてしまいます。 

また、1回の入院日数の限度に関しても注意点があります。 同一の病気、もしくは医学上関連している病気で短期間に2度入院した場合、2回目の入院は2回目とカウントされず、1回目の入院の延長となってしまうのです。

 1入院の限度が60日の医療保険を例にとると、たとえば1回目の入院で30日を要した場合、直後に同じ病気により入院すると、その入院は1回目の入院の残日数である30日までしか保障されません。 1回目の入院と同じ病気、もしくは医学上関連している病気での入院は、1回目の入院から180日経ってはじめて2回目とカウントされます。 

こうしたことから、医療保険の入院保障が、入院のリスクに完全に対応しうるものとは言えないことがわかってきます。 なお、入院保障は初日から保障されるものと、入院後5日目などから保障されるものがありますので、確認が必要です。 


・通院特約 

では、次に通院特約です。 

この特約によって支払われる通院給付金は、実は入院給付金をもらったことを条件としてはじめて受け取ることができるものです。つまり、入院給付金の対象となる入院をしなければ、保障の対象とはなりません。 人は、病気をすれば必ず入院、というわけではありません。 かつては大手術に入院、というコースでの治療を余儀なくされた病気も、医学の発達により通院のみで治療できるようになってきています。 この場合は当然、入院給付金の受け取りを条件とした通院保障は役に立ちません。 このことを知らずにいると、こんなはずでは、と肩を落とすことになります。

 なお、がん保険や、事故やけがを保障の対象としている損保系の傷害保険では、この通院給付金が入院を条件とせずに支払われます。 がんによる長期の通院やけがに不安がある方は、むしろこちらの加入を検討するとよいでしょう。


・手術給付金 

次に、手術給付金です。 手術給付金は通常、どの医療保険にもついています。 通院特約とは違い、支払いに入院を条件とせず、設定した入院日額に手術の種類に応じて10や20、40などを乗じた金額が支払われます。  

この保障がついているのだから、とにかく手術に関しては安心、と思いたいところですが、ここでも注意が必要です。 「どんな手術も保障」してくれる保険はないからです。 どの手術を保障するのかは保険会社が決めており、保険会社は自社が決めた手術のみ(約款に記された88項目)を保障するか、もしくは健康保険の対象となる手術のみを保障しています。 

つまり、医療保険で保障されない手術、というものがあるのです。

 したがって、手術したのに手術給付金が受け取れない、ということが起こりえます。 

<手術給付金の対象とならない手術の例> 

・創傷処理 ・皮膚切開術 ・抜歯手術 ・持続的胸腔ドレナージ ・経皮的エタノール注入療法 ・悪性新生物根治放射線照射 など

 ※各社異なりますので加入の際は約款にてご確認ください。 


医療保険の必要性は、個人の主観によっても決まる 

以上のように、医療保険は病気やけがに伴う経済的なリスクのすべてをカバーしてくれる魔法の杖ではありません。この事実をきちんと踏まえたうえで、加入を検討している医療保険をよく確認し、その内容に納得できれば、その医療保険はあなたにとって十分に必要性のある商品となりうるでしょう。 確かに、医療保険については、否定的な人、一部否定しながらも上手な活用法を提案する人、おおむね肯定する人などさまざまです。

しかし、たとえば、高い保険料を支払うくらいなら自ら医療に備えて貯蓄をすればよい、という意見があった時、「そうだ、その通りだ」とその言葉をうのみにするのではなく、では自分は医療のためにコツコツと貯蓄し続けられるのか、果たしてそのお金に手を付けずにいられるのか、ということを考えみるとよいでしょう。 

専門家の意見や保険の内容を吟味しながら、自分は病気やけがに際して何が不安なのか、そのためにはどんな保障が必要なのか、ということを、一般論としてではなく、自分自身のこととして具体的に検討してみてください。その過程で、あなたにとって必要な医療保険の形が見えてきます。  

◆FPの会社のホームページに記載したものです。(現在はリニューアルされているため掲載されていません)

※上記の情報は数年前のものです。現在の保険制度とは内容が異なっている可能性があります。

ライター 須々木ユミのポートフォリオ

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